え――?

目の前が、真っ黒になる。勇運くん、夏海を見ただけで、どうして震えているの?


「勇運くん……、勇運くん!」

「っ! あ、悪い……。俺、帰る」

「え、ちょっと待って、勇運くん!」


だけど、勇運くんの足は止まらなかった。

私たちから離れるため、絶え間なく交互に足が動き……そして、見えなくなる。


「勇運くん……」


一体、なにが、どういう事?

どうして勇運くんは、あんな顔して震えていたの?


「冬音ー? 今の方は?」

「あ、クラスメイト。今日たくさん私を助けてくれた、とっても優しい人なの」


お母さんは「そう」と言って、私の背中に手を当てる。


「じゃあ、またお礼をしようね」

「……うん」


お母さんの手が、温かい。勇運くんと一緒に名前を書いた時みたいだ。

そう。確かにあの時は温かかった。だけど、


今は――


もう一度、スマホの画面に目をやる。そこに浮かぶ、「一葉 勇運」の文字。

その文字が、さっきの勇運くんの表情と重なって……すごく尖って見えた。