「勇運くん、ごめんね」
「……なにが」
最初の頃は、ぎこちない雰囲気がいたたまれなくて、たまらず謝った。だけど勇運くんは、知らぬ存ぜぬを貫き通してくれた。
「一体なにがどうなってんだよ」と、根掘り葉掘り聞かれるかと思いきや。私と同じ高校生であるにも関わらず、勇運くんも大人の対応だった。
そんな一葉兄弟の優しさに助けられながら、私は今日も交番の前を通って学校を目指す。
十二月、中旬。
寒さも本格的になってきた季節。白い息の向こう側に、交番の赤い光が見える。
そして、赤い光のそばでモゾモゾ動く人物。
それは――
「柴さん……?」
「あぁ冬音さん。おはようございます」
なんと。柴さんが脚立を使って、交番のランプ周辺に、何やら飾り付けをしていた。
「おはようございます。えっと、それは何ですか……?」
「飾り付けです」
「か、飾り付け……?」
”交番に飾り付け”という意味がピンと来なくて。私の頭上に、ハテナがたくさん飛ぶ。
すると、ちょうどバイクに乗って守人さんが帰って来る。どうやら、朝のパトロール中だったらしい。