あれはまだ本当に小さかった頃。物心がようやくついたくらいの時だろうか。

私は泣きながら道を歩いていた。何故泣いていたのかは今は思い出せない。

でも私の事だからたいした事ではないのだろう。

でも泣いていた私を見ていた男の子がひとりいた。

その子はとても優しい顔をしていて私の顔を覗き込んできた。

「どうしたの? なんでないてるの?」

その言葉に私は泣いてばかりで答えない。

でも男の子はずっと心配そうにしていて私の側を離れない。

なんとかして私を泣き止ませようと色々な事をして見せる。

でも私の涙は止まらない。

男の子は最期の手段とばかりに縦笛を取り出した。そしてなんだかよくわからないメロディーを奏でだす。

その音に誘われるように私は顔を上げる。

男の子はなんだかよくわらない音をたくさん出していたが、その顔は真剣でなんだかかっこよくみえた。

そしてなんだか楽しい気持ちになってきて私は笑った。

「やっとわらった」

男の子はそういって笑った。歯の抜けた笑顔がなんだか間抜けで私はまた笑った。

「わらわそうとしてないのにわらうなよ!」

「ごめんなさい」

「あっ、バカなくなよ! ほらこれみろ!」

男の子はそういって縦笛を私に見せた。そこには何かシールが貼ってある。

「どうだ、カッコイイふえだろ!」

「……かっこよくない」

「なんでだよー!」

「わかんない」

「おまえなんなんだよ。おもしれーおんな!」




「フミヤ先輩があの時の……!」

「やっと気づいたのか。おせーんだよ」
フミヤ先輩はそういうと恥ずかしそうに頭をかいた。

私はフミヤ先輩から渡された縦笛を見る。

過去の事は思い出してわかったけどどうしてフミヤ先輩が今現在私の縦笛を持っていたのかとか色々と考えてはいけない事を考えそうになったけど私はその記憶を消した。

だってイケメンなんだもん。顔でなんでも許せちゃう。

「先輩あの、さっきの事ですけど。私先輩となら――」

「おっとそれ以上はダメだ」

先輩の長い指が私の口をふさぐ。

そして綺麗な顔が私の耳元に近づいてきてこう囁いた。

「その先のセリフは二人っきりの時に、な」

もうそんな事言われた私の顔はゆでダコだよー。