私は部室に入る前に小春に念を押しておくことにした。

 まだ公にされたくないし、結婚することは言っていないから。


「みんなには内緒にしてくれる?」

「いいけど、なんで?」

「社会人と付き合っているなんて噂が流れたら、困るなあって……」

「そう? あたしだったら堂々と言っちゃうけど。まあ、いろはが隠したいっていうなら言わないよ」

「ありがとう」


 小春は部室のドアを開けようとして、手を止めた。


「ま、知らないほうがいい人もいるし」

 ぼそりと彼女が言った言葉に首を傾げる。


「え? どういう……」

「とりあえず、その経験をしっかりイラストに活かしてね! ショーマとリューセイのキスシーンできた?」

「あ、忘れてた!」

「もう! 仕事はしっかりしてよー」

「ごめん」


 小春がドアを開けると、すでに後輩が数人来ていた。

 小春は彼女たちに向かって高らかに宣言する。


「さあー今日もしっかり推しを愛でようー!」