「あの、実は坊ちゃんにお会いしたいという方がいて……」


 加賀さんが遠慮がちに言うと、遥さんは「誰?」とすぐさま訊ねた。

 加賀さんの背後からひょっこりと現れたのは奏太くんだった。


「あ、奏太くん。久しぶりだね」

 と私が話しかけると彼は照れくさそうに頷いた。


「さあ、勇気を出していってらっしゃいませ」

 加賀さんに背中を押されて、奏太くんはゆっくりと私たちに近づいてきた。

 というよりは、彼は遥さんに向かって歩いてきた。

 そして、遥さんの前に立った彼は顔を上げて言った。


「お、にぃ……さん!」

 奏太くんの顔はみるみるうちに真っ赤に染まった。


「おめでとう、ございます!」


 奏太くんはじっと遥さんを見つめたまま固まった。

 緊張しているのか、額から汗をかいている。

 遥さんがどう反応するのか、不安げにとなりを見ると、やっぱり彼は驚いていた。

 だけど、すぐに微笑んで返した。


「ありがとう、奏太」


 奏太くんは驚いた表情で目を丸くして、それから破顔した。

 すごく可愛い笑顔だった。