トントントンと階段をのぼる足音がして、遥さんの手が私から離れた。

 母がお茶を淹れて持ってきてくれたのだった。


「まあ、そんなところに立っていないで座ったら? いろは、ちゃんとおもてなししなさいよ」

「あ、うん。ありがとう」


 私は母から紅茶と焼菓子のトレーを受けとり、「こちらへどうぞ」と言って彼をガラステーブルに案内した。

 私はソーサーにカップを置いて、紅茶を注いだ。


 それから私たちはいろんな話をした。

 欧州に旅行へ行ったときのことや、好きな食べ物の話、一緒に旅行をするならどこがいいとか。


 それを聞いた遥さんは微笑んで言った。


「よかった。君とは価値観が合いそうだな。夫婦になるには大切なことだからね」

「そ、そうですね」


 なんだか、すごく嬉しい。

 本当は8歳も上の彼と話が合わないんじゃないかって不安だったから。

 というよりも、私があまりにも知識や経験が乏しくて、一緒にいて彼の迷惑になってしまうのではないかという心配があるから。


 今がチャンスかもしれない。

 これからのことを話すには今しかない。


「あの、私……遥さんにお話しておきたいことが、あるんですけど」