しばらくおじさまに冷たい視線を送っていた遥さんは、急に私のほうへ顔を向けて満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ、いろは。帰って結婚式の計画を立てようか」


 まるで人が変わったように穏やかで優しい表情だけど、ちょっと怖い。


「う、うん……そうだね」

「結婚雑誌と式場のパンフレットを取り寄せたよ」

「えっ……えっと」


 この空間でころりと変わった彼の態度に私は戸惑っている。

 すると、おじさまがこちらに向かって声を上げた。


「は、遥……私を、秋月家を見捨てないでくれるのか」

 遥さんはまた冷たい目線をおじさまに向けた。


「あなたの事情などどうでもいいです。しかし、俺は秋月家に生まれた。この事実はどうにもできない。今後の関わり方はいろはと相談して決めるので、二度と俺に命令しないでください」


 遥さんはきっぱりとそう言って、おじさまにくるりと背中を向けた。

しかし立ち止まって、補足するように続ける。


「あとひとつ。あなたは俺にとって反面教師だ。俺はあなたとは真逆の家庭を作りますよ」

 おじさまは表情を緩ませて、わずかに笑みを浮かべた。


「ああ、それでいい。お前が幸せになれるなら。良い家庭を築いてほしい」


 遥さんはおじさまの言葉に何も反応せず、病室を出た。

 私も出ようとしたらおじさまに呼びかけられた。


「いろはちゃん、遥をよろしくね」

 私は振り向いて「はい」と答え、おじさまにお辞儀をして遥さんを追いかけた。