確かに、彼は元恋人の美景と会っていた。
再会したのは美景の母親が亡くなり、彼女が精神的に参っているときだった。
助けになってやりたいと思った。
決して男女の関係ではないことを、彼は由香里に説明した。
「あなたはそうでも向こうは違う。絶対に秋月家を狙っているに決まってるわ」
「そんなことはない。落ち着いて聞いてくれ。私はただ、彼女のサポートをしているだけなんだ」
「家族のことを放っておいて、よその女のサポート? バカらしくて話にならないわ」
「だから、これからこの家を出て、3人でやり直そうと……」
「私は絶対にこの家を出ないわ。お義父さまを見返してやるの。私が遥を立派にするの。あなたの助けなんて必要ないわ」
正史郎は自分の愚かさを呪った。
妻がこれほどまで頑なになってしまったのは自分の責任だと強く感じた。
しかし、あの父の前では萎縮してしまい、ただ頭を下げることしかできないのだ。
それから、何度も由香里を説得したが、彼女は別居を拒んだ。
仕事でも家庭でも神経をすり減らしていき、彼はやがて不眠になり、体に不調をきたした。
そして、ついに鬱病を発症したのである。
