遥さんは部屋を見たあと、私に顔を向けて言った。


「しばらくは今のマンションに住むことになるんだけど、そのうち新居を考えているんだ。だから、君の荷物は最低限のものだけ運んで、新しい家が決まったらすべて運び出してもいいと思ってるんだけど、どうかな?」


 特に反対することもないので、私は「はい、それがいいと思います」と返事をした。


「この部屋、このまま残しておくほうがいいよね? 君はひとりっ子だし、すべてのものがなくなったらご両親も寂しいと思うだろうから」


 遥さんはやわらかい表情で微笑んで言った。


「そうですね。できればそうしたいです」


 遥さん、私の親のことまで考えてくれるなんて優しすぎる。


 彼はおもむろに手を伸ばして、私の髪にさらりと触れた。

 どきりとした。

 遥さんから笑みが消えて、やけに真剣な表情で見つめてくる。


 こ、これは……キスの流れ!?