「遥くんは正直、正史郎くんのもとで、よくまともに育ったなと思うわ」
「えっ……」
「ぜんぜん父親と似ていないわよね。優秀だし冷静だし、何より物怖じしないのがいいわ。正史郎くんもそれで早く遥くんに後を継がせたいのね」
どうしよう、言えない。遥さんが家も仕事も放棄しようとしているだなんて。
母はどれくらい本家の事情を知っているのだろう。
「ママ、あの、遥さんが本家を継がなかったら、どうなるんだろう?」
あくまで仮定として、訊ねてみた。
そうしたら、母は笑った。
「それはそれで仕方ないんじゃない? 今は実子が跡を継ぐ時代でもないでしょ」
「え? それでいいの?」
母の答えには少し驚いた。
だって、母は自分の家を継いで父が養子になったから、そこにはこだわりがあると思っていたのに。
「子供の人生は子供のものよ。家なんて、どうにでもなるのよ」
「意外……じゃあ、ママはどうして家を継いだの?」
「え? んー、パパがうちの名字を気に入ったから」
「そんな理由!?」
「あら、理由なんてなんでもいいのよ」
母はにこにこしながら、もう何度も聞いた父との馴れ初めを話した。
おじさまの思いがどうであれ、遥さんが本家を継がなくてもいいのかもしれないと思うと、少しほっとした。
