病院からの帰り道、母は車で私を自宅マンションまで送ってくれた。
そのあいだ、母はおじさまの話をした。
「正史郎くんはね、脆い人なのよ。昔から、風に飛ばされたら一瞬で消えそうな人だったわ」
私は驚いて「そうなの?」と聞き返した。
「そうよ。個人的には子供の頃から可愛らしくて好感があったけど、正直彼に本家の当主が務まるのか疑問だったわ。たぶん、他の親戚たちもそう思っていたわよ」
「そんな、じゃあどうしておじさまが……男だから?」
「まあ、それもあるけど。他の親戚にも男兄弟で優秀な人がいっぱいいるのに、彼の父が絶対によそには譲らないって聞かなくて」
おじさまの父と聞いて、私はぞくりと背筋が凍る思いがした。
小学校の頃に会った、恐ろしい人。いや、鬼だ。
「いろははあのおじいさんが大嫌いだったわね」
と母が苦笑して言った。
「そうだよ。あの人、めっちゃ怖かった。階段で遊んでいた私も悪いけど、だからって怒鳴らなくてもいいじゃない」
おじさまの父である清十郎さんは、表では立派な人だったらしいけど、家の中ではすごく感情的ですぐまわりに八つ当たりをする人だった。
彼が他の人に大声で命令しているのを見かけたときから怖かったけど、怒鳴られた日に私はパニックになってしまった。
あれから本家に行かなくなったのだ。
