「そんなに悲しいの? いろはが望むならバレンタイン禁止をやめてもらおうか」

 まるで照明をオンにするかオフにするかというほど、さらりと軽くそんなことを言う。


「い、今までの先輩たちの青春を返してあげてよ!」

 思わず抗議してしまった。

 そうしたら、遥さんはまったく悪びれた様子もなく答えた。


「結局、みんな学校に持ってきて隠しておいて、下校時に渡してたりしていたと思うけど?」

「うっ、まあ……」


 確かに、みんな校内で堂々とできないからこっそり渡していたと思う。

 ただ、先生には渡せなかった。渡されても困ると思うけど。


「小春は長門先生に渡したかったのにできなかったんだよ」

 と言うと、遥さんは面白がるように「へえ」と笑った。


「でもよかった。絢も高校の頃、凄い数もらって処分に困っていたからね。一応、開封はしたよ」


 ああああ、ふたりで捨てたんだー。


「小春ちゃんは絢のことが好きなのか。仲を取り持ってあげようか?」

「でも、長門先生は同性が好きなんでしょ?」

「バイだから」

「へ?」


 私はふと先ほどのふたりのことを思い出した。


「小春の先生へのチョコは義理だと思う」


 小春はきっと、ちゃんと本命がいる。

 いつか、話してくれるまで待とうと思う。