遥はもう、いろはを遠くから眺めているだけでは満足しなかった。


 いろはが高校生になってから、遥は頻繁に母親のかえでと会って話をした。

 かえではいろはを授かるまで時間がかかった。娘には早く結婚して子供を産んでほしいと彼女はいつも言っていた。


 だから、遥はそれを利用した。


「かえでさん、本家との見合いはいかがですか?」

 それはだいたい、会話の流れでの冗談だったりするのだろう。

 しかし、かえでは本気にしたのだった。


 親を納得させればもう、こちらのものだ。

 ようやく、手に入る。

 いろはが、自分のものになる。

 遥はかえでと話をしながらひそかにほくそ笑んでいた。


 *


「いろはです。どうぞよろしくお願いいたします」


 見合いの日のいろははとても綺麗だった。

 きちんと着物を着つけしてもらい、メイクと髪型も整えてもらっていた。


 遥は目の前のいろはを見つめて、ただ静かに微笑んでいた。

 まるで初めて出会ったかのように、冷静に落ち着いた姿を見せていた。


 しかし、胸中は歓喜に震えていた。

 それを見せないように、彼は常に穏やかに振る舞った。


 遥の人生はすべて、いろは一色になっていた。

 秋月家を継ぐという固い意志はもう、彼の中では消え失せていた。


 いろはがいれば、他のものは何もいらない。


「遥さん、おかえりなさい!」


 家に帰るといろはが笑顔で迎えてくれる。

 彼はようやく未来に光が差したのだった。