今まで我慢してきたものが大量にあふれ出すかのごとく、遥は何度も「かあさん、かあさぁん……」と声に出して泣いた。

 いろはは今度は遥の頭を撫でた。


「よしよし。いいこ、いいこ」

 遥は歯を食いしばり、涙を止めようとしたが止まらず、それどころかますます酷くなるばかりだった。


「どうしたの? おにいちゃん」

 遥があまりにも泣きすぎるので、いろはは不安げに訊ねた。

 自分の『よしよし』が効かないのかと思っているようだった。


「お、まえの……せいで」

 遥は嗚咽をもらしながら彼女を睨んだ。


「お前のせいで、涙が止まらないんだよ」

「ふえっ!? いろはのせい?」

「そうだ、お前のせいだ。どうしてくれるんだよ」


 こんな子供に八つ当たりしても仕方がないと思ったが、彼女の前では驚くほど素直な気持ちがあふれ出した。

 すると、いろはは遥の頭に抱きついた。


「だいじょーぶ。いろはがまもってあげる」

 遥は驚いて目を見開いた。

 こんな子供の言葉に、なぜか、胸が高鳴り、熱くなる。


「いろはが、そばにいてあげるよ」