遥はいろはを抱きかかえて口を塞いだ。
「泣くな!」
そう言ったものの、今度は恐怖に震えているのか、いろはは一層声を出そうとした。
「ちっ……めんどくさいな」
遥は彼女を抱えてベッドに下ろし、一緒に転んで布団をかぶった。
「声を出すな。静かにしろ」
「んんんーっ!」
「泣き止んだら許してやる」
「んっ……」
いろはは震えているが、素直に言うことを聞いた。
大人しくなったところで遥は彼女の口を塞いでいた手を離した。
「う、ぅ……」
いろははまだ涙ぐみながら遥をじっと見つめた。
「なんだよ? 見るな」
泣いた顔をじろじろと見られるのは気分が悪い。
「いたいの?」
と彼女が訊いた。
「え……?」
「あのね、ままがね……いたいの、とんでけってしたら」
「いや、お前、何言ってんの?」
子供の言語は意味不明すぎる。
遥が呆れて目をそらすと、ふいに額に小さな手が伸びてきた。
「いたいの、とんでけー」
いろはは遥の額を触って微笑んだ。
「いたいの、とんでけー」
遥は驚いて目を見開き、小さな彼女をまじまじと見つけた。
「ほら、いたいの、どっかいった」
えへへ、と笑う彼女に、遥は呆れるどころか、胸の奥が強烈に熱くなった。
「ままがね……こうすると、なくのとまるって」
遥は堪えきれずに涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
いろはは驚いて目を丸くしたが、そんなことに構う余裕が遥にはなかった。
遥はうつむいて、声を出して泣いた。
「かあさん……」
