「は? な、なんだよお前……」
遥は動揺し、ベッドから下りるといろはに詰め寄った。
いろはは泣きそうな顔で見上げて言った。
「ままの……だいじな、もの……こわしちゃった」
いろはは目を真っ赤にしながら訴える。
「はあ? 知るかよ。出ていけよ」
遥はドアを指さして、彼女を睨みつけた。
「お、こられ、る……」
「俺の知ったことじゃない。出ていけ」
少し強い口調で言い放つ。
「ひっく……うぇ……」
いろはが泣きそうになり、遥はうんざりした顔になった。
「ここで泣くな。出ていけ」
三度目だ。
これで言うことを聞かなかったら無理やり連れ出すつもりだった。
「でも、おにいちゃんも、ないてる」
遥はどきりとして言葉を失った。
先ほど頬を伝った涙がまだ乾いていないのか、それとも目が赤く腫れているのか。
それでも、遥はすぐさま否定した。
「俺は、泣いてなんか、ない」
子供のくせに、どうしてそんなことに気づくのか、遥は苛立ちを感じた。
「ないてるもん。おにいちゃんもないてる。いろはといっしょ」
「うるさい! 俺は泣いてない! お前と違う!」
遥はこんな子供に見られたことの恥ずかしさについ大声で怒鳴ってしまった。
「うああああぁ……」
いろはが声を上げて泣き出した。
まずい、と思った。
