「遥くん、お誕生日おめでとう」
それは11歳の誕生日のこと。
後妻の美景は遥にプレゼントを贈った。
父も彼女もにこにこしながら遥がプレゼントを受けとるのを待っていた。
母が亡くなってから、遥はほとんど誰とも話すことがなく、父とも美景とも食事以外では関わらなかった。
祖父は認知症が始まり、離れで暮らすことになったため、こちらもほとんど関わらなくなった。
ある日、親族を呼ぶ誕生日パーティーの前日のことだ。家族三人でお祝いをしようと父が言い出したのだった。
今まで母がいたときは、そんなことはしてくれなかったのに。
遥は、母と美景とで扱いがまるで違う父の様子に憤りを感じていた。
目の前のプレゼントを拒否することもできた。
子供だから、ここで思いっきり泣いてわめいて、嫌だと困らせてやることもできた。
しかし、そうしなかったのは、母との約束のためだ。
「ありがとうございます、美景さん」
遥は笑顔でプレゼントを受けとった。
――立派な跡継ぎになるのよ――
いつか母の言った言葉を胸に抱き、遥は笑顔で新しい母と接した。
もらったプレゼントは開封することもなく、部屋の隅に置いておき、彼らが忘れた頃に焼いて捨てた。
