遥さんの今までの人生に、私はどのように関わってきたのだろう。

 はっきり言ってぜんぜん覚えていない。

 でも、長門先生の言ったことも気になる。

 もう、この際だからちゃんと、訊いてみることした。


「わたし……わからないの。どうして遥さんが、そこまで私にこだわるのか……」


 遥さんは黙ってじっと私を見ている。

 これ以上訊くなということだろうか。

 でも、私は知りたい。


「教えてほしい。あなたがどんな思いで生きてきたのか。なぜ、私をそんなに想ってくれているのか」


 私は遥さんの手を握って、じっと見つめた。

 彼は少し俯いて、何か考えるような仕草をした。

 駄目なのかな、と諦めかけた瞬間、彼が口を開いた。


「その話をすると長くなる。今夜ゆっくり話そうか」


 それから私たちは夕食を食べてシャワーを浴びたあと、熱い紅茶を入れて、ソファに並んで座った。


「初めてここに来た日のことを思い出すよ」

 私がそう言うと彼は苦笑した。


「君は距離を置いていたけどね」

「だって、男の人の家って初めてで、すっごく緊張したんだもん」

「そうだよね。いろはにとっては初めて会ったようなもんだからね」


 遥さんは紅茶をひと口飲んで、ふっと笑った。


「俺がどれほどあの日を待ち望んでいたか、君に教えてあげようか」


 私はゆっくりと頷いた。