「あの、しっかり育つってどういうことですか?」
「え?」
「私はどちらかと言えば奏太くんと一緒で、パパとママにすごく甘えて育ちました。それって、しっかりしていないということですか?」
我ながらなんて生意気なことを言っているのだろうと思うけど、内心イライラして言わずにいられなかった。
おじさまは急に慌て出した。
「ち、違う、違う。ほら、君の場合は分家だからしきたりも何もないだろう。だが、うちは違うんだよ。私の代で終わらせてしまうわけにはいかないんだ。このために遥も……由香里も辛い思いをした。そうだ、これは由香里の願いでもあるんだよ」
おじさまは急に椅子から立ち上がり、前のめりになって訴えるように続けた。
「由香里は……遥の母親は遥が跡継ぎになることを必死に願っていた。由香里の遺言でもあるんだ。だから、遥は由香里の死後も必死に勉学に励んでいた。大人になるまでは、あの子はどこへも遊びに行かず、ずっと家で勉強していたんだよ。あの子もそのつもりだったはずだ」
おじさまは息を切らせてしゃべっている。
落ち着かないと、また倒れてしまうんじゃないかって心配になった。
私は少し考えて、静かに自分の意見を口にした。
「おじさま、実は私、遥さんとあまり話ができていなくて、彼が何を考えているのかも、正直わかりません」
「じゃあ、一度この話をしてみて……」
「でも、私とふたりでいるときの彼は、とても素直に本心をさらけ出すことができる人です」
おじさまは少し驚いたような顔をする。
「今の生活を大切にしたいと思うのは、彼だけではなく私もです」
「いろはちゃん?」
私が守るべきものはおじさまのプライドなんかじゃない。
「私は、私の夫の思う道に寄り添って、ついて行きたいと思っています」
