「遥さんはきちんとお仕事をして真面目に暮らしています。今のままでも充分、秋月家に貢献していると思うのですが」
彼が仕事を辞めようとしていることは伏せておく。
もしこのまま自由にふたりで暮らしていけるなら、遥さんは今のままでいてくれるのではないかと思うから。
おじさまと険悪な仲である彼にとって、今の距離感が一番いい気がするのだけど。
おじさまにその考えはないようだ。
「秋月家は代々あの家を継いでやって来た。私も父からそのように教育を受け、そして遥も同じように教育したんだ。遥は幼い頃からずば抜けて優秀で、親戚たちも誰もが認める本家の跡継ぎだった。今さらそれを変えることなどできない」
私は少し考えて、ひとつの疑問を口にしてみた。
「奏太くんにはその権利はないんですか? 長男でなければ駄目なんですか?」
生意気な質問をしているとは思うけど、どうにもおじさまの言葉が引っかかってしまい、つい訊ねてしまった。
おじさまは困惑の表情で答える。
「奏太にも同じように教育するつもりだった。しかし、私たちはあの子を甘やかしすぎてしまった。父の清十郎が亡くなってからうちの家は、なんというか平和になってね。私たちもつい、気が緩んでしまったのかな」
おじさまは少し笑った。
「遥のときは父の目もあって厳しい環境にあったから、それもあって遥はしっかり育ったのだろうね」
話を聞いていたら、なんて身勝手な言い分だろうと思った。
子供の人生を、この人は何だと思っているのだろう。
