「由希ちゃん、大丈夫?」
由希ちゃんは手のひらで口を押さえて咳き込んでいる。
私はすぐにティッシュの箱を彼女の目の前に置いて、数枚取って渡した。
「ぐっ……あんた、ちょっとそれ。まさか、推しに似てるってだけで……」
「最初はそうだったんだけど、でもふたりで会ったらすごく楽しくて、それに……」
キス、しちゃったし。
わたしの、はじめてをあげちゃったし。
「ああ、もう死ぬかと思った」
「ごめん」
「でも、よかったわ。あたしは今、すごく安心してる」
「本当?」
嬉しくて思わず笑みがこぼれた。けれど、由希ちゃんはなぜか怪訝な表情をしている。
「親の決めた相手でよかったよ。あんた、このままだとダメンズに引っかかるところだったわ」
「えっ……え!?」
思いがけない言葉に混乱する。
「あんたみたいに素直で夢見がちな女はだいたいダメな男に惚れるのよ」
私が戸惑っていると由希ちゃんはため息まじりに笑った。
「まあ、とりあえず素性は知れているから大丈夫でしょ」
由希ちゃんはそう言って、『SAMURAI王子』のポスターに目をやった。
クールな表情のリーダー大和翔真。
甘い顔の優しそうな榛名琉星。
やんちゃな雰囲気の霧島怜音。
真面目そうな日向海里。
由希ちゃんがぽつりと言う。
「特に興味ないけど、この中だったら怜音かな」
