学校から帰ると自宅マンションの前に高級車が停まっていた。
見たことのある車だ。
「おじさま?」
「やあ、いろはちゃん。待っていたんだ」
おじさまは車から降りてきてゆっくり歩いてきた。
少しやつれているように見える。
「あの、大丈夫ですか? もう、歩いても……」
「これくらいなら平気だ。それより、君に話があるんだけど」
義父を(しかも病気の人を)マンションの前に立たせているままではよくないと思い、私は自宅に招き入れた。
運転手さんは車を走らせて行ってしまった。
「綺麗にしてるんだね」
おじさまはリビングを見わたすと、感心したように言った。
「加賀さんがたまに掃除に来てくれるんです」
「ここは遥が使っていた部屋だ。新居は構えないのか?」
「えっと、いずれ別のところに引っ越すって言っていたような……」
「そうか。同居をしてくれるということではないのか」
コーヒーを淹れて、焼菓子と一緒にテーブルへ置いた。
おじさまは「ありがとう」と言ってコーヒーをひと口飲む。
そして、神妙な面持ちで話を切り出した。
「いろはちゃん、お願いがあるんだ。君にしか遥を説得できない。どうにか、秋月の家に戻るように言ってくれないか?」
あまりにも必死に、そんなことを言われるから、胸が痛くなった。
だけど、ちゃんと冷静に、よく考えて言わないと、あとで取り返しのつかないことになる。
私はふと疑問に思ったことを口にした。
「あの、このままでは駄目なんですか?」
おじさまはぴくりと眉を動かした。
