「もういいですか? これ以上話すことはないので帰ります」
険悪な雰囲気の中、遥さんはただひとり冷静で、彼は私の手を握ったまま静かに立ち上がった。
それから彼は私の手を引いてリビングを出ようとしたが、おじさまが制止した。
「遥、お前は優秀で完璧な人間に育ったと思っていたが、やはり中身はまだ子供だ。何もわかっていない。これはお前ひとりの問題ではないんだ。秋月家を名乗る以上、勝手なことは許さない」
おじさまは、まるで人が変わったみたいに怖い。
動揺し、震えていると、遥さんが私を握る手にぎゅっと力を入れた。
「はるかさ……」
見上げると彼は私に笑顔を向けた。
まるで大丈夫だよと言うように。
それから彼はまた冷たい表情でおじさまを見つめた。
「それなら、秋月家を奏太に譲ります。俺はこの家と縁を切って会社も辞めて静かに暮らしますから」
「遥、お前は何を考えているんだ! そんな勝手なことを」
おじさまに便乗して、美景さんが不安げに話す。
「遥くん、奏太には無理だわ。あの子には素質がないの。お願いだから少し冷静になって考えてもらえないかしら?」
遥さんは口もとに笑みを浮かべながら美景さんをまっすぐ見つめた。
「そうやって下手に出れば俺が笑顔で言うことを聞くと、いまだに思っているんですか? お継母さん」
美景さんがびくっと震えて黙り込む。
遥さんは微笑を浮かべながら言い放つ。
「すべて演技ですよ。いい加減に気づいてください」
