「よほどの大恋愛の末にようやく結ばれるとかだったら、まだわかるけど、見合いで会ったばかりでしょ?」
「うん」
「何か、焦る理由でもあるのかねえ?」
由希ちゃんはビールを飲みながらつまみの裂きイカを口にした。
私は彼女が買ってきたつまみのチーズを食べる。
婚姻届を出したら私の夏休みのタイミングで一緒に暮らそうと言われている。
由希ちゃんも同棲しているし、こういうのが普通なのかなって特に何も思わなかった。
「ま、いっか。よそのおうちのことに他人があまり口を出すのもね」
「由希ちゃんは他人じゃないよ」
「そうは言っても、さすがに結婚は当人同士とその家のつながりだからね」
少し頬の赤くなった由希ちゃんはビールの缶を軽くまわしながら私に訊ねた。
「で、あんたが結婚を踏み切った理由は何?」
「え?」
「嫌だったら断るでしょ?」
「う、ん……」
ちょっと恥ずかしいけれど、正直に答えることにした。
「とても優しくて、誠実で、カッコよくて、それに……」
「それに?」
私は壁に貼った『SAMURAI王子』の特大ポスターに目をやった。
「翔真に、そっくりなんだ」
それを聞いた由希ちゃんはビールを吹きそうになった。
