「坊ちゃん、いらっしゃいますか。あら?」
加賀さんがひょっこり部屋を覗いた。
しまった。ドアが開いていたことを忘れていた。
慌てて遥さんから離れる。
「失礼しました。お邪魔しちゃったわ」
恥ずかしそうにしている加賀さんに、遥さんはまったく動じることなく声をかける。
「何か用事?」
「あ、ええ。旦那さまがお呼びです」
加賀さんは少し不安げな表情になった。
遥さんを見ると、彼は神妙な面持ちだった。
「まあ、何を話したいのか予想はできてる」
もしかしたら同居の話をするのかもしれないと思い、急に不安になってきた。
「あの、遥さん……さっき私、おじさまから同居のことを……」
「大丈夫。いろはが困ることはないよ」
彼はそう言ってにっこり笑った。
同居を断ってくれるのかなと思った。
彼らが嫌いなわけじゃないけど、急にこの家で義両親と暮らすのは正直、気が進まない。
リビングに行くと、そこにはおじさまと美景さんが座っていた。
遥さんは何も言わずに彼らの向かい側へ腰を下ろし、私はそのとなりに座った。
おじさまは私に笑顔を向けてから、遥さんに話を切り出した。
「そろそろ結婚式の計画を立てなければならないだろう。秋月家を継ぐ人間として恥ずかしくない立派な披露宴を行いたい。式場等はすべてこちらで手配するから……」
「そのことでしたらご心配なく。自分たちで決めます」
遥さんはおじさまの言葉を途中で遮った。
妙に冷たい空気が流れて、しんと静まった。
