「か、奏太くん!」
「な、ななな……何してるんだ!」
それですべてを悟り、慌てて謝罪をする。
「ごめんなさい! 部屋を間違えちゃったの。てっきり遥さんの部屋だとばかり思って……」
「そそそ、そんなわけ、あるかあ!」
奏太くんは激しくどもりながら赤面している。
かなり怒りに満ちた表情だ。
「一番端の部屋だって聞いたからてっきり」
「反対側だ!」
「そうだったのね。すぐ、出ていくから」
とにかく早く退室しなければ非常にまずいと思った。
すると、奏太くんが大声を上げた。
「待て!」
「え?」
振り返ると彼は首まで真っ赤にして額から汗をかきながら訊ねた。
「よ、読ん、だ?」
小説のことを言っているのだと思い、とっさに「読んでないよ」と答えた。
「読んだなあっ!」
しまった。ここは「何のこと?」と訊くべきだった。もう遅い。
「ごめん。遥さんだとばかり思ってたから。でも、すごくよく書けてるよ!」
「ほ……ほんとか?」
奏太くんの顔は鬼のような形相から一変し、急に穏やかになった。
これは(家族として)仲良くなるチャンス!
「奏太くんと私、似てるね。私の部屋もこんな感じなの。推しのポスターやグッズでいっぱいなの。あ、私はイラストを描いてるんだよ」
奏太くんは呆気にとられた顔で訊ねた。
「き、気持ち悪いとか、思わないのか?」
「どうして? 好きなものに囲まれた部屋なんて最高じゃない」
奏太くんは照れくさそうに少し笑った。
いい子だなあと思った。
