「送っていこうか?」
と伊吹くんが言った。
「ううん、お迎えが来るから」
と私は答えた。
すると、伊吹くんは「そっか」と小さな声で言った。
試験を終えた人たちが次々と帰宅していって、だんだん人が少なくなってきた。
伊吹くんは帰らないのだろうか、と不思議に思っていたら、彼は妙に真剣な表情でまっすぐ私を見た。
どうしたのだろう……?
「秋月、言いたいことがあるんだけど」
「うん?」
「あの……」
冷たい風が頬に当たる。
伊吹くん、寒くないのかなあって思った。
彼は真っ赤な顔をしている。きっと寒いせいだろうと思っていたのだけど。
彼は思いがけないことを言った。
「好きだ」
「え?」
「お、れ……」
伊吹くんの表情がなんだかすごく哀しげに見える。
彼は少し困惑したような表情で、震え声で言った。
「俺は、秋月のことが好きだ」
まさか、そんなことを言われるとは思わなかったので、驚いて絶句した。
どう返事をすればいいかわからなくて、ぼんやりしながらも思考をめぐらせる。
「あ、の……伊吹くん」
「わかってる。秋月が困るのはわかってる。だから、無理やり気持ちを押しつけたりしない。ただ……」
伊吹くんは一度言葉に詰まって俯き、それからまた顔を上げて私をまっすぐに見つめた。
「気持ちだけ、伝えたかった」
伊吹くんの表情が、今までで一番きれいに見えた。
