諦めて、退出する?
試験をやめる?
――無理することはないよ――
遥さんの優しい声が聞こえた。
だよね、無理しなくてもいいよね。
私は鉛筆を置いて、静かに退出願いをするため、試験官に向かって挙手をしようと思った。
だけど……。
私はこれでいいのだろうか。
これからも、遥さんに甘えて生きていくの?
ひとりで何もできない人間でいいの?
遥さんがいなくなったら、私はどうやって生きていくの?
もう一度、鉛筆を握った。
まだ、諦めるような状態じゃない。
落ち着いて深呼吸をすると、問題がしっかりと頭に入ってきた。
ああ、これも……この問題も全部、今まで勉強してきたものだ。
放っておいたら絶対に理解できなかった問題だけど、遥さんが丁寧に教えてくれた。
彼が教えてくれたから、私はしっかり理解して、頭に入ったのだ。
遥さんとの今までの時間を、無駄にしたくない。
ふいに、ぽんと頭を撫でられたときの感触を思い出した。
まるで、彼が励ましてくれているようで、それが私の原動力となって、頭が冴えてしっかりと問題が解けた。
体の熱さも寒気も、吹っ飛んでしまったかのように、すっきりした気持ちになった。
そして、残り時間ギリギリに最後の問題を解いて、鉛筆を置いた瞬間、試験が終了した。
終わったと思ったら、急に脱力した。
