12月に入ったばかりの試験日は、よりにもよって今年一番冷え込む日となった。
朝起きたら頭がぼんやりしていたけど、きっと緊張でうまく寝つけなかったからかもしれないと思った。
遥さんは私を試験会場まで車で送ってくれた。
「じゃあ、いってきます」
そう言って、車を降りようとしたら彼に腕をつかまれた。
「しっかり暖かくして」
遥さんはそう言って私のマフラーをふわっと巻き直した。
「ありがとう」
「いろは、無理することはないよ」
遥さんが穏やかな表情で言った。
「大丈夫だよ」
と私は答えた。
「わたし、合格するから」
そう言うと、彼はふっと笑って私の頭をぽんと撫でた。
「君は自分が思っているよりは要領がいい」
「え……?」
どういうことだろう?
いつも私のことを『おバカさん』だなんて言って笑うくせに。
「君は頭がいいと俺は思ってるよ。短期間でよくここまで成績を上げたね」
遥さんが、褒めてくれた。
昨日まで呆れ顔でため息ばかりついていたのに。
なんだか、嬉しくて涙が出そうになる。
「遥さん……」
「ああ、感動するのは試験が終わってからね。これで失敗したら笑うよ」
「そ、そんなことに、ならないもん!」
私は笑顔で「いってきます」と言って車を降りた。
外は頬を刺すような冷たい風が吹いていた。
それが余計に体の体温を奪っていくみたいで、全身が震えた。
さ、寒い……。
