「何かあるなら加賀を通してください。それでは失礼します」

 電話が終わったようだった。

 ドアが開いたので慌てて離れると、遥さんが驚いた顔をした。


「あ、あの……お風呂、先に……」

「ああ、そうだね」

 遥さんはいつもどおり、穏やかな笑顔で言った。

 その表情に安堵して、私はつい彼に踏み込んで訊いてしまった。


「今の電話って……」

「父だよ」


 お父さま!?

 とても親子の会話とは思えない口調で話していたように思えるけど。


「私のことを話していたの?」

「いろはと一緒に帰るように言われてね。でも、今はそれどころじゃないからね」


 私の都合に合わせてくれているんだと思ったら、申しわけない気持ちになる。


「試験が終わったら挨拶に行ったほうがいいかな?」

 そう提案してみたら、彼は「必要ないよ」とあっさり言った。


「でも……」

「いろは、君は余計なことを考えないで、自分の試験のことだけ考えていればいい」


 久しぶりに、ぞくりとするほど冷たい表情で、そう言われた。


「そう、だよね……余計なこと言ってごめんなさい」

 すると、遥さんは怖い顔から一変、いつもの穏やかな表情になった。


「最近のいろはは他のことに気が散っているようだね。嫌ならやめてもいいんだよ?」

 満面の笑みでそう言われたので、反論する。


「やめないよ!」