校庭からは祭りで盛り上がる歓声が聞こえてくる。
朝陽がふと「いいなあ、青春」と言った。
「そんなもの、僕にはなかったけどね」
と絢が言うと、朝陽は驚いた顔をした。
「そういえば、先生はどうして高校の保健医になったの?」
朝陽の質問に絢は短く答える。
「採用枠があったから」
「それだけ?」
「他に理由が必要?」
朝陽はしばし考えて、それから微笑んで言った。
「伊吹がよく保健室でさぼってるって聞いてね。最初は何してんだーって怒ってたんだけど、なんか部活で嫌な目に遭ったみたいなの。家でも親に反抗的だし、たぶん居場所がないんだろうなって思ってたんだけど」
絢は朝陽に目線だけ向けて耳を傾ける。
「長門先生が受け入れてくれたから、伊吹は救われたんだと思う」
絢は驚いて朝陽の顔を凝視した。
朝陽は冷静な表情で、わずかに口もとに笑みを浮かべている。
「あーぶっちゃけると、伊吹は無実の罪をなすりつけられて、退部させられたのよ。そのときの顧問も相手側の味方だったから、伊吹は教師に対して不信感しかないわけ」
「それは知ってる」
と絢は短く答えた。
「長門先生だけは、伊吹の味方でいてくれたよね」
朝陽の声が、やけに耳に凛と響くな、と絢は思った。
