空は夕暮れから夜が訪れようとしていた。
絢は中庭のベンチに座って、薄暗い空を仰いだ。
校庭はお祭り騒ぎで、多くの人の笑い声が聞こえてくる。
がさりと音がしたので、絢はそちらへ視線を向けた。
そこにはビールの缶を手に持った朝陽が立っていたのである。
「あらぁ……長門センセ。こんなとこで、何してるのぉ?」
朝陽がとなりに腰を下ろしたので、絢は眉をひそめて低い声を出した。
「校内でアルコールは禁止」
「失恋なのよ。許して?」
絢は吐き捨てるように言う。
「家で飲めよ」
「ひとりで飲んでも涙が出るだけじゃない」
絢は「はぁ~」と大きなため息をついた。
「気分が悪いからどこかへ行ってくれ」
素っ気なく返したつもりだったが、朝陽はにこっと微笑んだ。
「あなたも失恋したのよね?」
絢はどきりとして、朝陽に顔を向けた。
彼女は腹が立つくらい、穏やかに笑っていて、それが絢の涙腺を緩めた。
「うるさい」
と言って、慌てて顔を背けた。
「私たち、同じ人を好きになっていたのね」
「一緒にするな。僕のほうがお前よりずっとハルのことを知ってる」
「あら、そうとは限らないわ。あたしは一日のうちのほとんどを彼と同じ空間で過ごしてるのよ」
「ハルのことを子供のときから知ってる」
「彼が仕事をしてる姿、とってもカッコイイの。見たことないでしょ?」
絢はチッと舌打ちした。
無駄な言い争いだと思い、絢は黙った。
