***(そして現在)***
「絢、俺は今すごく幸せなんだ。お前のおかげだよ。ありがとう」
遥にそのように言われたとき、絢は何も言うことができなかった。
というよりは、見えない鎖で縛りつけられたのだった。
遥はとても穏やかに笑っていた。
しかし、その表情の裏にある本心を、絢は鋭く悟った。
俺の邪魔をするな。
俺を失望させるな。
裏切ったらどうなるか、わかっているな?
遥の笑顔が眩しくなるほど、絢は恐怖を感じた。
いやだ。
ハルに嫌われたくない。
一生ハルのそばにいるのは僕だ。
例え、この想いが通じなくとも。
絢は遥のとなりにいる女の子に目をやった。
そして、やはり思うのだ。
なぜ、あんな子が彼のそばにいるのだろう。
あの子に何ができるというのだ。
何の取り柄もない子だ。
ハルのためになることが、できるとは思えない。
それでも、ハルはその子と一緒にいるんだね?
絢は諦めたようにため息をついて、遥を見つめた。
その心底意地悪な、愛おしい男の顔に、満面の笑みを向けたのだ。
「おめでとう、ハル」
周囲の歓声など、絢の耳には届かなかった。
