絢の母親は、未婚だった。
遊びで付き合った相手とのあいだに、絢は生まれた。
相手はそのことを知って逃げたらしい。
年月が経ち、母親に恋人ができた。
母親と事実婚をしたその男は、早々に絢に手を出した。
絢も男を受け入れた。
テレビやネットの記事では浮気や不倫の情報があふれている。
男女の愛など簡単に壊れるのだと、絢はよく知っていた。
遥だってそうだ。
今まで数人と付き合っても、うまくいかなかった。
長く片想いしているその少女だって、もし仮にうまくいったとしても、いずれ破局するだろう。
「ハル、僕を君の唯一無二の【親友】にして」
恋人になれないなら、親友になればいい。
親友は裏切ることはない。
一生そばにいられるのだから。
恋人や妻よりも長く深い関係でいられる。
「ああ、いいよ。一生、絢を俺の【親友】の席に居させてあげる。その代わり……」
遥は打算的な男だ。
自分に利益がないことには無関心。
見返りもなく頼みを聞いてくれることは、まずない。
絢は遥のためなら何でもすると心に誓った。
そして、遥は満面の笑みで、絢に忠告するように、強い口調で、それでも優しく、言い放った。
「絶対に俺を裏切るなよ」
