「誰だよ、お前」
と男子生徒のひとりが声を上げた。
すると遥はすんなり名乗った。
「秋月遥」
絢は【あきづきはるか】と頭にしっかり記憶した。
「こんなことして、タダで済むと思うなよ」
「そうだ。お前なんか、地獄に突き落としてやる」
ガソリンをぶっかけられても強気な姿勢でいる彼らに向かって、遥は笑顔のままため息をついた。
そして、彼はポケットからライターを取り出した。
「え? お前……」
「バカ、やめろ」
「正気か?」
遥は微笑みを崩すことなく、ライターの火を点けた。
「うああっ!」
「やめろっ!」
「殺される!」
あたりに彼らの悲鳴が響きわたる。
絢は驚愕のあまり、体が硬直した。
遥はにこやかな笑顔で彼らに忠告する。
「二度とその子に近づくなよ。今度目撃したら、間違いなく俺が君たちをあの世に送ってあげるから」
その言葉とは裏腹に、遥はとても冷静で、穏やかだった。
絢は呆気にとられて遥を見つめた。
絢には、遥が閻魔大王に見えた。
