「結婚かあ。考えたことないよ。ねえ、いろは?」
「えっ? そ、そーだね……」
言えない。
でも、恋人ができたということくらいは伝えてもいいかな。
「結婚なんて相手に縛られるだけじゃん? 家事とか料理とかしなきゃいけないなんて面倒じゃん。あたし、絶対結婚しなーい」
どう返せばいいかわからなくて黙っていると、伊吹くんが代わりに返答した。
「ていうかお前、結婚できると思ってんの?」
「他人のこと言えないでしょ? あんたもこんなところでゴロゴロして無駄に時間潰しちゃってさ。趣味のひとつもないオトコなんてつまんないわよ」
「うるせーよ。俺、ちょっと寝るから静かにしろよ」
そう言って伊吹くんは本当に寝入ってしまった。
彼はここに来ても特に活動することはなく、ただ昼寝をして帰るだけ。
アイドルのファンでもないし、漫画やアニメに詳しいわけでもない。
「伊吹くん、なんでこの部に入ったんだろうね?」
私がこそっとその疑問を口にすると、小春はカタカタと作業をしながら返答した。
「そりゃ、推しを愛でるからに決まってるでしょ?」
「伊吹くん、推しがいるの? 聞いたことない」
小春はちらっと横目で私を見た。
「いぶっきー、かわいそ」
「え?」
「なんでもないわ。早くラフ描いて見せてよ」
「……うん」
今日はあんまり上手く描けなかった。
