司会者にマイクを向けられた長門先生は、黙ったまま遥さんを見つめている。

 なかなか答えがないせいか、周囲がざわつき始めた。


「先生、なんか顔怖くない?」

「いつもの雰囲気とちょっと違うよね」

「恋のキューピットじゃなくて、もしかして」

「三角関係ってやつじゃない?」


 周囲の生徒たちの憶測が飛び交っている。

 このまま長門先生が何も言わなければ、私と遥さんと先生が三角関係だなんて噂が広まってしまう。


「……遥さん」

 不安になって見上げると、彼は先生に目を向けたまま「大丈夫」と私に言った。


 長門先生が、少し目線をずらして私を見た。

 どきりとして、私は硬直した。

 彼の()がなぜだかとても、寂しそうに見えた。


 長門先生はため息をついて、また遥さんに目を向けた。

 そして、彼は笑みを浮かべて言った。


「おめでとう、ハル」

 その瞬間、周囲がまた「わああああっ!」と歓声を上げた。


「これは、学園始まって以来の大事件(ビッグハプニング)ではないでしょうか! なんとこの学園の生徒と先生とお友達との熱い関係! まさに学園史に残る出来事です!」

 司会者がカメラに向かって鼻息荒くしゃべりまくる。


「いろは~。あたし、感動して涙出ちゃったよ」

 と小春が本当に涙目で私に抱きついた。

「あ、ありがとう」


 私はまだこの状況に頭がついていかないまま、小春を抱きしめた。

 長門先生に目を向けると、彼はどこか遠くを見ていた。

 伊吹くんは、どこにもいなかった。

 朝陽さんは、遥さんと何か話していた。


 私の高校生活最後の学園祭は、とんでもない出来事で強烈に記憶に刻みつけられたのである。