驚いている私に向かって、小春はもっと驚いた顔をした。
「何よ。キスシーンなんて今まで何度も描いたでしょ?」
「そうだけど……」
それは知らなかったからだ。
キスはとても神聖で美しいものであると思っていたから。
あんな、体がどうにかなりそうな、生々しい……。
「う、あぁ……」
私が頭を抱えると、小春はさらに怪訝な声を出した。
「頭でも痛いの?」
「ううん、何でもない」
小春は首を傾げたあと、ノートPCに目を向けて話を続けた。
「とりあえずさ、ただのキスシーンじゃ物足りないのよね。だから、ベッドに押し倒された格好でお願いできる?」
「ベッドに押し倒された!?」
私が過剰に反応してしまったせいで、小春はまたもや怪訝な顔をした。
「そんなに難しい?」
「難しくは、ないけど……」
顔が、熱い。
触れられた指先をリアルに思い出して、鼓動がどくどく高鳴った。
ショーマとリューセイがキスをするイラストなんて、何度も描いてきたよ。
ただ、それが美しくて尊い、幻想世界の話だったからだ。
困惑する私に小春が追い打ちをかけてきた。
「ちょっと際どいやつがいいの。受け側のシャツが乱れて胸が見えてる感じで」
私は黙って額に手を当て、うつむいた。
