「そう。一緒に進学できるといいね」

 遥さんは穏やかな笑顔でそう言った。

 あんまり深く突っ込まれなかったので、少しほっとした。


「試験はいつ?」

「12月のはじめかな」

「じゃあ、そろそろ追い込みだね」

「……うん」


 かちゃかちゃとナイフとフォークが皿にぶつかる音がやけに耳に響く。

 私は不自然なくらいドキドキしている。

 別に何もやましいことなんて、ないのに。


「いろは、緊張してる?」

「えっ!?」

 遥さんが私の顔をうかがうように、じっと見つめた。


「仕方ないね。笑顔で正月を迎えられるか、地獄を見るかの瀬戸際だし」

「じ、地獄……?」

 遥さんはにっこりと微笑みながら話す。


「駄目だったら、よその大学を一般入試で受けるか、それとも浪人するか」

「浪人……」

 そうだ。あまり考えてなかったけど、落ちるかもしれないんだ。


「それとも、このまま専業主婦になるか」

 満面の笑みでさらりとそんなことを言われて、慌てて返す。


「そんなことないよ! 絶対合格するから」

「そっか。残念」

「何が!?」


 彼はそれ以上何も言わずに、ただ笑いながら食事を続けた。

 おかげで、伊吹くんのことは頭の中から吹っ飛んでしまった(というか、どうでもよくなってしまった)