平日の夜、遥さんは早く帰宅すると夕食作りに参加する。
ふたりでキッチンに並んで、私は加賀さんから教わったひよこ豆のトマトスープを作り、そのとなりで彼は大きなフライパンで牛肉を焼いていた。
じゅうっと焼き上がった牛肉のステーキに、赤ワインソースをかけて、さらに上かた溶かしバターを振りかけると、濃厚な風味が漂ってきた。
「うわあっ、美味しそう!」
「冷めないうちに食べよう」
「うん」
ダイニングテーブルに並んだマッシュポテトとステーキの大皿、バターライスにサラダとトマトスープ。
これだけでお店に来たみたい。
「このスープ美味しいね。よく煮込んで味もちょうどいい」
スプーンでひと口スープを飲んだ彼が笑顔で感想を述べた。
「えへへ、そうかなあ。加賀さんに比べたらまだまだだけど」
「上達してるよ。いろはは頑張り屋さんだね」
「あ、ありがとう」
褒められると本当に嬉しい。
ますます頑張ろうって気になっちゃうよ。
「学校はどう? 勉強のほうは?」
ふいにそんなことを聞かれて、緩んでいた頬が引き締まる。
「えっと、普通だよ。勉強も、まあまあかな」
数学のことより伊吹くんのことが気になってしまう、なんて言えるわけないよ。
「そう。一緒に内部で進学する友達はいるの?」
どきりとしてフォークを持ったまま固まった。
何が訊きたいんだろう?
いや、ただ話題で出しただけだよね、きっと。
「えっと、知ってる子で数人、いるけど」
まさか、伊吹くんも一緒だなんて、これは言う必要ないよね。
