私はしばらく顔を背けて遥さんの反応を待った。
だけど、彼から何も返答がなくて、逆に不安になってきた。
そっぽを向いたまま、目線だけを彼に向けると、そこには意外な表情があった。
「えっ……遥さん?」
彼はひどく不安げな顔をして、じっと私を見ていたのだ。
その表情はとても虚ろで、まるで何か大切なものを失くしてしまったかのようだ。
動物に例えるならウサギ。
彼は虎からウサギになっていた。
「やだっ、本気にしないでよ!」
慌てて立ち上がって彼のそばに駆け寄ると、腕をつかまれてぐいっと引っ張られた。
「本気にしてないよ」
上目遣いでにやりと笑う彼の表情に、私は急に苛立ちが募ってきた。
「だ、騙したのね!」
「騙されるほうが悪い」
「心配して損した。あなたが不安に感じていると思ったのに」
「不安? まさか。俺が君を逃がすとでも思う?」
観覧車の窓から夕暮れの光がちょうど彼の顔を照らして、キラキラして見える。
そこには不敵な笑みがあって、それがとっても綺麗で、私は不覚にもどきりとした。
「やっと捕まえたんだ。逃がさないよ」
大きな手で頬を撫でられて、鋭い目つきに縛られて、身動きが取れなくなった。
同時に体が、ぞくりと快感に震えた。
いやだ。
ここは怒ってもいいはずなのに。
私はなぜか安心して、体が熱くなった。
