「家族なの。一緒に暮らしてるから、それで……」

 いろはの言葉に、伊吹は狼狽えながら「あ、ああ……」と答えた。

 先ほど男が言い放った毎日一緒にいるという意味は家族だからということだろうか。

 ということは兄貴だと言っているようなものだ。


 兄貴? と伊吹は訝った。

 小春から、いろははひとりっ子だと聞いていたような気がしたのに。

 悶々としていたら、背後からひびきを呼ぶ声がして、慌てて彼女に話しかけた。


「じゃあ、俺行くから」

「うん、また学校で」

 彼女が手を振ってくれたので、伊吹は嬉しくなり、口もとが緩むのを押さえられず、俯き加減で手を振り返した。

 それから、くるりと向きを変えて、朝陽たちのいるところへ戻ろうとした。

 しかし。


 彼はどうにも気になって、そっと振り返ってしまった。

 いろはと、その男がふたりで並んで立ち去っていくそのうしろ姿を見た。

 男が彼女の背中に手を添えている。

 それを見て、モヤっとした。


 いや、本当に兄貴だったら失礼だし、もしかしたら親戚かもしれない。

 そう自分に言い聞かせた次の瞬間――。


 その男が、少しこちらへ顔を向けて、それからにやりと笑ったのだ。


「あいつ……!」

 その表情にぞくりとした。