伊吹がひとりでアトラクションを楽しんでいるあいだ、朝陽はぐったりしていた。

 三人の子供たちは好き勝手にどこかへ行こうとしたり、喧嘩をしたり、朝陽の手を引っ張ってぎゃあぎゃあ騒いだ。


「すみません、朝陽さん。無理やり付き合わせてしまって」

 父親は足下にしがみつく女の子の手を取りながら朝陽に謝罪した。


「いいえ。どうせ暇だし、いい休日になったわ」

 などと言ったものの、子供たちの底知れないパワーを侮っていた。


「姉さん、これ毎日やってるのかと思うとまじ尊敬するわ」

 朝陽はひとりぼそぼそと呟いた。


 売店で購入したハンバーガーとポテトとジュースで簡単に食事をするだけでも、大騒ぎだった。

 テラス席で食事をしていると兄たちは戦闘ごっこやらでポテトをばら撒き、妹はジュースをひっくり返した。


「すみません。朝陽さん、ちょっとトイレに行ってきます」

 父親が席を立った直後、朝陽はトレーを持った知らない人たちに声をかけられた。


「終わったなら席を譲ってくれます?」

 軽く睨まれて、朝陽は「すみません」と言い、慌ててテーブルの上の残骸をトレーに積み上げて席を立った。

 そして、子供たちに言う。


「ゴミを捨ててくるから、ここで待ってて。いい? ちゃんと待ってるのよ。ひびきをひとりにしないでよ!」

 兄たちは「へーい」とよそを向いて返事をした。

 これが間違いだった。