遥さん、なんて言い方をするのだろう。

 伊吹くんもびっくりしてるよ。


「君の話はいろはから聞いているよ。仲良くしてくれてありがとう」

 遥さん!?

 驚いて彼の腕をつかんだ。


 どうしてそんなことを言うんだろう。

 伊吹くんの話を家で勝手にしてるって思われちゃうよ。

 まだそんなに仲良くなっていないのに。


「いろはも、俺とばかり毎日一緒にいるより、同学年の子とも交流したほうが人生のためになるしね」


 遥さん、どうして“毎日一緒にいる”のところを強調するんだろう。


 伊吹くんの顔を見ると、彼は眉をひそめて怪訝な表情をしていた。

 そうだよね。いきなりそんな話をされても反応に困るよね。

 こうなったら、一番無難なことを言うしかない。


「家族なの。一緒に暮らしてるから、それで……」

 伊吹くんは「あ、ああ……」と反応をした。

 兄だと思われたかもしれない。


 遠くから「ひびきー」という男の人の声がして、女の子が「パパだー」と走っていった。

 それから伊吹くんは私に軽くお辞儀をして、ちらりと遥さんを見てすぐに視線を戻した。


「じゃあ、俺行くから」

「うん、また学校で」

 私が軽く手を振ると、伊吹くんは照れくさそうに手を振り返してくれた。

 嬉しくてつい頬が緩んだら、となりで遥さんが私の背中に腕をまわした。


「じゃあ、行こうか」

「……うん」


 やけに、にこにこしている遥さんを見て、なんだか妙な気持ちになった。