明け方にようやく眠りについた遥は、もぞもぞと懐で動くものに気づいて手で抱えた。

「わっ……」

 と小さな声がした。

 彼はその温かい体をぎゅっと自分に抱き寄せた。


 こうすると安心する。それは昔のあのときのようだった。

 まだ小さな体だった彼女を抱きしめて眠った。

 あの頃は自身でも自覚するほど心が荒んでいて、そんなときに彼女と出会ったのだ。


「遥さん」

 と小さな声で話しかけられた。

 彼はぎゅっと目を閉じたまま、さらに目の前の体を強く抱いた。


「う……苦しい、よ」

 もがいて離れようとする彼女を強く押さえつけたまま、低い声で彼は言った。

「逃げるなよ」

 彼女がびくっと震えるのがわかった。

 わかったけど、解放してやる気にはならなかった。


「逃げないよ……でも、ちょっと緩めて……」

 彼が少しだけ目を開けると、目の前のいろはがもぞもぞしていた。

 自分でもようやく強く押さえ込んでいることに気づき、腕の力を緩めた。


「はあ……苦しかった」

 彼女は深く息を吐いて、それからじっと上目遣いで遥を見た。

 寝起きの少しとぼけた感じの表情がたまらなくそそられる。


(あー……可愛い、可愛い。可愛い!)