「一緒に遊んでくれてもよかったのに。そうしたら、私はきっとあなたのことをもっと知っていたはずよ」

 私は彼の胸もとに額を押しつけて、ぼそぼそと小声で言った。

 すると、彼も小声でささやくように言う。


「君は、俺にとって女神だったから」

「ふふっ……何それ」

「遠くから見ているだけでよかった。でも、欲が出るものだな」


 欲が出る。そう言われたら、私だってずっと彼を欲していると思う。

 結婚してから、一緒に暮らしてから、大人のキスを知ってから。

 彼に、触れられるようになってから。

 私はずっと、もっとほしいと思ってる。


「わたし、も……」

 顔を上げるとすぐそこに、遥さんの顔があった。

 暗がりに息遣いの音と感触があった。

 そして、唇に触れる感触もあった。

 何度も触れては離れて、じれったいキスだなあと思った。

 だから、私は彼にしがみつくように、彼の肩をぎゅっとつかんで自分からキスをした。


 2次元で描かれるような綺麗なキスとは違って、体がぜんぶ溶けてしまうくらい気持ちよくて。

 ついさっきまで怖いと感じていたのに、不思議だった。

 キスひとつで、こんなに幸せになれるんだなあって。