相手の声を聞きながら、彼はいろはのことを思い出していた。

 デート中に彼はスマホアプリで雨雲レーダーを確認し、ゲリラ豪雨が迫っていることを知っていた。

 そして、わざとあの時間に外を歩き、雨にぬれたことを口実にして自分の家に連れ込んだのだ。


 彼女が好きな菓子ブランドのチョコレートを用意し、優しい言葉をかけて、すっかり信用させることに成功した。


 予想はしていたが、あまりにも簡単なことだった。

 彼女は世間を知らなすぎる。


 電話の相手の言葉を聞きながら、彼は軽く笑った。


「お前に心配されるようなことはないよ」


 電話の相手は少し感情的になっているのか、電話口から声がもれている。


 彼は特に動じることもなく、相手が落ち着くまで黙って聞いた。

 そして、彼は最後に電話の相手に礼を述べた。


「お前には感謝しているよ……(あや)