頭を下げたままでいると、遥さんからまったく反応がないので、恐る恐る頭を上げた。
すると、彼は口に手を当てて顔を背けていた。
「遥さん?」
「あははは……」
彼は堪えきれないというふうに、声を上げて笑った。
あれ? 私は何か失敗したのだろうか?
「あのう……遥さん?」
「いや、もう……いろは、どこまで可愛いんだ、君は」
「あ、このワンピース? 由希ちゃんがくれたの」
遥さんはまた吹き出して、今度は腰を折り、お腹を抱えて笑った。
これって、ぜんぜん大人の雰囲気じゃないよね。
たぶん、私は失敗したんだよね。
でも、そのおかげでなんだか安堵して、少し緊張がほぐれた。
「一応聞いてみるけど、その挨拶はどこで習ったの?」
遥さんはなんとか笑いを堪えながらそう言った。
まずい、と思った。こういうこと、リアルではやらないのかもしれない。
私が培ってきた2次元の知識は、もしかしたらあまり役に立たないのかもしれない。
「習ったわけじゃなくて、なんとなく……」
ドキドキよりも、恥ずかしさのほうが上回って、私は正座をしたまま俯いてしまった。
これからどうやってこの状況を挽回すればいいのだろうか。
悩んでいると、遥さんが目の前に来て、ベッドに腰を下ろして私の顔を覗き込んだ。
「こちらこそ、よろしくね」
彼は穏やかな笑みを浮かべて言った。
そして、私たちは――。
