「いろは」
背後から声をかけられて、びくっと肩が大きく揺れた。
恐る恐る振り向くと、遥さんが背後に突っ立って涼しい顔で見下ろしていた。
どくんどくんどくん、と心臓が早鐘を打つ。
「あ……ごめんなさい。これ、私のじゃなかったみたい」
恥ずかしくてまともに彼の顔を見ることができない。
すると、遥さんは膝を折ってしゃがみ込み、私の顔を覗き込んだ。
「君のために手に入れたものだよ」
どきりとして、私はとうとう箱を床に落としてしまった。
「つ、使うの?」
おずおずと訊ねると、彼は淡々と返した。
「俺は別に使わなくてもいいけど、そうすると君が困ることになるかな」
どくどくどく、と息苦しいほど鼓動が鳴る。
「で、も……だってこれ、240回分って……」
どんなことかわからないし、想像もできない。
不安げに彼に視線を向けると、ふっと笑みを返された。
「ああ、足りないかもね」
「足りないの!?」
驚愕のあまり叫んでしまった。
遥さんはまったく動じることもなく、じっと私を見て、それから冷静にとんでもないことを言い放った。
「1年は365日あるからね」
「ま、毎日!?」
そ、そんな……!
