伊吹は驚いて黙った。

 長門が冗談で言っているのか、本気なのかわからないのだ。

 他の教師ならおそらく前者だろうが、彼の場合は特殊だ。

 伊吹が以前から感じていることだが、長門は他の教師たちに比べて異質な存在に思えてならないのである。


「だから、そういうんじゃないって……」

「秋月さんと恋人同士になりたいだろ?」

「は?」

 恋人同士という言葉に伊吹の心臓が過剰に反応した。

 どくどくどくと鼓動が高鳴りすぎて呼吸が止まりそうになる。


「可愛いよね、あの子」

 長門は腕を組み、微笑みながら話す。


「イケメンの香取くんにぴったりだと思うんだけどね。僕に任せてくれたら、君との仲を取り持ってあげるよ」

 この先生は何を言っているのだろう、と伊吹は訝った。

 彼が知らないだろう事実を、伊吹は口にする。


「秋月にはもう相手がいる」

 すると、長門は「ふうん」と短く返答した。

 一転して、冷たく伊吹を見下ろすその表情にはつい先ほどまでの余裕じみた笑みさえない。


 長門はゆっくりと近づいてきて、伊吹に顔を近づけてまじまじと見つめた。

 そして、笑みを浮かべながら言い放つ。


()っちゃえよ」